素人が論文を書く

 そもそも論文を書くというのは、学者とかその卵の学生の仕事で、普通の人が論文を書く必要に迫られているわけでは、全然ない。

 音楽療法の実践者は微妙なポジションで、別に論文を書かなくても、よい実践を重ねればいい、という気もする。だが、音楽療法士の認定を受けるとか、資格の更新などを行おうとすれば、自分の実践を論文という形にまとめて発表することを求められる。


 論文を書くことに素人なりに僕は比較的ポジティブに取り組んできた。だが論文は元々専門家の作業であって、なかなかに難しいことが多い。いわゆる学者と呼ばれる人は、論文を書く専門家である。なので、大学とか大学院とか、どこそこの研究所などで、みっちりと修業を積む。

 僕の場合、そういうプロセスのないまま、いきなり自分の実践を書き連ねてきた。論文として不完全なものしかかけないのは、当たり前ともいえる。

 学者の論文を、大工さんが専門家の使う道具や材料で家を建てるのに例えれば、僕のやってきたことはホームセンターで買ってきた道具と材料で愛犬のための犬小屋を作る、つまり日曜大工、日曜研究者の仕事と言うべきものである。


 大したことも書けないのに、なんでせっせと学会発表用に論文を書くかというと、まず第一に、これは自分の実践を見つめなおす絶好の方法なのである。僕は拙い論文を書いて、論文そのものはちっとも大したことが書けないけれど、実践は少しずつ良くなっていったのではないかと思っている。人に説明のつくように考えることで、少しずつ実践現場が見えるようになってきたと感じるのだ。


 次は、いろんな人の前に自分の考えを提出することで、共通の関心興味をを持つ人との出会いが生まれ、さらに交流が可能になるということである。音楽療法業界での出会いと交流が、僕の人生に潤いと刺激をもたらしていることは間違いない。


 そしてもう一つ、僕がやっている実践を発信することは、僕のオアイテの皆さんへの慈しみ愛おしさの表現でもある。誰よりも一番彼らの身近にいて、自分の実践のあれこれに関して言えば、誰よりも分かっている、つもりなのである。結果その思い入れから「みてみて!こんなにすごいんだよ」みたいな気持ちで、ずっと発表をやってきた。


 そしてその延長で昨年音楽療法の世界大会にエントリーし、英語で発表したわけである。これはまた日本語で発表するのとは別の体験であって、そのことについては、別の項目を起こして書くことにする。